「ソメイヨシノが…」とニュースのたびに開花予報が流れ人々の期待に満ちた顔の大写しとなる。その頃になると、こちらも落ち着かなくなってくる。この時期を逃すと春の植物「アマナ」に会えない。
アマナ(ユリ科)は集落のはずれ、畑の縁のこんもりした所に咲いていた。が、予想通りつぼんだ状態、太陽がいっぱい状態でないと花を開かない。予想した事ではあるが、ちょっとガッカリ。
「忍者みち」(渋沢丘稜に取り付く須賀神社からの山道の通称)、ここでもこの時期にしか会うことの出来ないアカシデの花を是非見たいと思って当日メンバー5人で歩く。雑木林の構成木であるアカシデやイヌシデ(カバノキ科)は、ソロとも呼ばれよく知られた落葉樹だ。昆虫でなく風に花粉を運ばせるこの仲間は、葉を展開する前に紙縒り(こより)をゆるめたような花穂(かすい)(雄花)をいっぱいぶら下げ精一杯花粉を飛ばす。アカシデはその花穂が赤いので遠くからでも梢が赤く見える。しかし、今日は曇りなのでその赤さが際立たず残念。その代わりランヨウアオイ(ウマノスズクサ科)が咲き始めていたし、スゲの仲間3種(カヤツリグサ科)も林のなかで揃い踏みだった。
●上記の写真:アマナのつぼんだ状態は21日撮影。開花状態のは22日昼ころ撮影した。(クリックすると写真を大きく見ることができます)
下の集落から上の尾根まで500m登るのにあれを観て、これを観て……一時間以上かかってしまい、もう昼に近い時間になっていた。工事で赤裸になってしまったあの谷戸でも、シュンランが咲き、アカシデ、キブシの花が咲いていたのに・・・と失われた植物やそこを住み処にしていたクモや小さい甲虫たちや、そうしたすべての生き物のことが頭に浮かんできてしまう。
昼近くにはポツポツしてきたので大急ぎで昼食を済ませ霊園工事現場には向かわず、雑木林の中に入ってマメザクラのちらほらと慎ましげにうつむく姿を皆んなで写真に撮る。本当に早春の雑木林にぴったりの花だと全員満足の吐息をつく。
千村(ちむら)の「生き物の郷」まで戻るとくぐもった声が道まで聞こえてくるので谷戸に下りてみると、アズマヒキガエルの蛙合戦の最中、なんたる好運!!
くんずほぐれつの生殖行為が終わり、紐のような卵を産み終われば「どっこいしょ」とばかり、また地面の中に寝に帰るヒキガエル。ひところに比べると減ったけれど、今年もまた巡り会えた。ちなみにこの谷戸のヤマアカガエルの蛙合戦は見逃して残念だったが、丸いこんもりした卵塊は2月末に確認している。
この谷戸の湿地を守り手入れをして下さる、また農作業をして下さる地域の方たちの気配りと労力があってこそのこの環境である。私たちは観たり聴いたり、こうした環境の中を歩かせて頂いて本当にたくさんの喜びと健康を戴いていると思う。
ありがとうございます。(日置 記)
ワンポイント・コラム
春植物 カタクリ、イチリンソウ、ムラサキケマンなど について
春、落葉樹の葉の展開する前に芽吹き、光合成をして花を咲かせ、球根などの根を太らせ、落葉樹の葉が空を覆う頃には地上部は跡形もなくなり地中で永い眠りについてしまう植物。