里山に春
雪に次いで相次ぐ荒々しい雨や風
こんなふうに春を連れてきた
里山の春
春は気前よく絵の具をぶちまけた
大地が送り出した いちめんの萌える緑のうえに
白 黄いろ 群青 赤むらさき
あらゆる色のバリエーション
喜びをうちに秘めた 命のバリエーション
むかし、衣食住の多くを里山から分けてもらっていたような昔
一日の大半を 山や畑で働き
日々の暮らしが支えられていた頃のことだけど
そういう暮らしをしてきた老人が
シワの中の眼を細めて
「山はいい 山で働いているとすべてを忘れる」
とろける笑顔で 話してくれたことがある
五十年ほど昔のことだが そのころの私にはわからなかった
今 圧倒的な春の目覚めの中を歩いていると
その言葉がなんだか分かるような気がする
自然がうちに秘める「いのち」が
素直に伝わってくる